2020年11月29日日曜日

パスカル・ピースのΨ難(さいなん) 2

エルヴィラ「7年も前に一度きり? それで今でもあいつのことを忘れられないって? …信じられない 純情を通り越してアホの境地だわ」
執事「…… ほっといてください」
エルヴィラ「あいつ、来る者は拒まずのタイプよ 『抱いて』って頼めばほいほい抱いてくれるわよ 
あたしが親父(=分家のスライヤー家当主)のスパイ※って承知の上で据え膳を喰らうような奴だもの」
※注:先代の隠し子騒動の際、おじ貴の差し金でエルヴィラが始祖邸に偵察にやって来たことを指す
執事「………」
エルヴィラ「あ、もしかしてあんたがあいつを抱くほう…だったのかな?」
執事「頼みますから、もう黙っていただけませんか」
執事「誤解のないように申し上げておきますが、私は始祖様とどうかなりたいなどと露ほども考えておりません」
エルヴィラ「…… して、その心は?」
執事「産まれた時にお母上を、そして十五でお父上を亡くされた始祖様は肉親と縁(えにし)が薄い方です 
奥方様を娶り、お子様をひとりかふたりお儲けになり、温かいご家庭を築いていただければ… それを見届けるのが私のささやかな夢でございます」
エルヴィラ「うへっ だいたいあいつ、マイホームパパになんてなれっこないわよ」
執事「…まあ、それは言えますが」
エルヴィラ「パスカル、ひとつだけ忠告しておくわ 禁欲もたいがいにしないと体が腐るわよ」
執事「大きなお世話です」
執事「では、エルヴィラ様 失礼いたします」
執事「……と!!」
始祖「………」
執事「おはようございます、始祖様」
始祖「………」
執事「………」
始祖「………」
執事「…何か私におっしゃりたいのでは?」
始祖「ゆうべはお楽しみでしたね(お約束のフレーズ)」
執事「確かにエルヴィラ様の部屋には泊まりましたが、始祖様がお考えになっているようなことはけして」
始祖「はん、そんな言い訳信じられるかよ」
執事「私がご主人様のセフレを寝取るような真似をするとお思いですか?」
始祖「かっこつけていないで、あいつのでかパイに惑わされたって正直に言えばいいだろう?!」
執事「始祖様、少しは私の話を聞いてください」
始祖「俺はもう何にも聞きたくねえよ」
…そもそも、俺は誰に対して怒っているんだ?
執事「始祖様!!」
さて、どっちに嫉妬しているのかしら
坊やに? それともあたしに?
執事「最後まで聞けっつーの」
エルヴィラ「くっくっく まるっきり痴話喧嘩だわね」


パスカル・ピースのΨ難(さいなん) 1



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ストラウド・マナーの早朝
執事「…朝か」
執事「ん?」
執事「△○■×÷▼□√!?」←注:パニクっている
執事「こ、このシチュエーションは…?」
執事「そうでした ゆうべ遅くにエルヴィラ様がやって来て…」
執事「ブラッドパックの売れ行きが絶好調とやらで、始祖様の部屋で3人で祝杯を上げて」
始祖「俺はもう寝るから、おまえらとっとと出ていけ」
エルヴィラ「あたしはもっと呑みたいのに~」
エルヴィラ「しかたないわね、部屋で呑み直しますか パスカル、付き合ってくれる?」
執事「かしこまりました」
エルヴィラの部屋(=客間)で、よもやま話をしながらしこたま酒を呑んだ
…ところまでは記憶があるパスカルだった
執事「…だめです そこから先の記憶がぶっ飛んでいます」
エルヴィラ「おはよう、パスカル ゆうべは素敵だったわ」
執事「エ、エルヴィラ様 ゆうべ、私はあなたに何かしましたか? 全然、記憶がないのですが」
エルヴィラ「うっふっふ う・そ・よ あたしが隣に横たわっても指一本触れずに爆睡してるんだもん」
執事「……」
エルヴィラ「あたしだって、無反応の相手を襲う趣味はないし」
エルヴィラ「ちゃんと目がさめたようだから、今からやる?」
執事「お戯れを …それより早く服をお召しになってください その格好はいささか刺激的すぎます」
エルヴィラ「あ~ら、童貞でもあるまいし まさか女の裸に免疫がないとか言わないわよね?」
執事「…その『まさか』だったりします」
エルヴィラ「え? うっそ~、マジ童貞なのぉ!?」
執事「童貞ではありませんが…ただ、女性とは…その、未経験で」
エルヴィラ「『女性とは』ということは『男性となら』経験済み…なわけね」
執事「…あ」
思いがけず墓穴を掘ったパスカルであった
エルヴィラ「相手はヴラド?」
執事「……」
エルヴィラ「否定しないところを見ると図星ね」
執事「…昔のことです」


2020年11月23日月曜日

ヴラディスラウス・ストラウドの憂鬱 8

始祖「なんじゃこりゃあ!?」
サラ「次はパスカルの番よ」
執事「サラ様、お強くなられましたね」
始祖「パスカル、ちょっと来い」
執事「…(うわっ 怒ってますね)」
始祖「さっき届いたヴァンパイア・デイリー・ニュースの夕刊だ 
『ヴァンパイアに福音、来月よりブラッドパック発売開始!!』
『考案者のパスカル・ピース氏は語る』
説明してもらおうか!」
執事「あちゃ~ 私の名前や顔は出さないでとあれほど言っといたのに」
執事「私って絶望的に写真写りが悪いんですよね」
始祖「そんなことは訊いとらん ブラッドパックっていったい何だ!?」
執事「わかりやすく言えば携帯可能な『代用血液』です 蛙や魚の血液を精製したもので、人間の血液とほぼ同じ効用があります」
執事「エルヴィラ様の患者さんたちに臨床試験のご協力をお願いしました」
始祖「エルヴィラとコソコソやっていたのはこのためか」
執事「おかげさまで、このたび当局から正式に発売の認可が下りました」

 執事「これがあれば、血に飢えたヴァンパイア
 が見境なく人間を襲って返り討ちに遭うことも
 なくなります 人間も吸血による精神的かつ肉
 体的負担(ダメージ)が軽減されるはずです」
 始祖「……」←注:先日、パスカルを気絶させ
 た張本人
執事「それだけではありません 売り上げの純利益の60パーセントは、始祖様、あなたの口座に振り込まれることになっています」
始祖「あん?」
執事「製薬会社が五分五分というのを、粘りにねばって四分六を勝ち取りました」
始祖「いや、だからなぜ俺の口座なんだ? 考案者のおまえが受け取るのが当然じゃないのか」
執事「我々人間はあなたがたヴァンパイアと違って短命種です 私もいずれ年老いて死にます」
始祖「………」
執事「受取人をあなたにしておけば、始祖様が存命な限り毎月、安定した収入が保証されます」
執事「ブラッドパックの購入者であるヴァンパイアが絶滅しない、という大前提ですが」
始祖「縁起でもないことをぬかすな」
執事「まあ、これで破産の危機は免れそうですね」
始祖「…ちょっと待て 重要なことを見落としていた
俺はそんな契約を誰とも交わした覚えはねえっ!!
執事「おや、始祖様はご存じなかったのですか? 私の特技は他人の筆跡をそっくり真似られることです」
始祖「てめえ、俺のサインを偽造しやがったのか!!」
執事「人聞きの悪いことをおっしゃいますな 始祖様に代わって契約書にサインをしただけです」
始祖「…… とんでもねえ執事だな」
執事「お褒めの言葉と受け取らせていただきます」
始祖「…… ふん もうこれ以上、俺に隠し事はないだろうな」
執事「ええ」
いいえ 本当はもうひとつだけ、あなたに隠していることがあります
それは、あなたを愛している…ということ
でも、あなたに告げることはありません
この思いは墓場まで持っていくつもりですから
パスカルがなにげなく口にした「我々人間は短命種」という言葉――
十数年後、パスカルは、はからずも自らの死をもってそれを証明することになるのだが
―――それはまた別のお話