2020年11月23日月曜日

ヴラディスラウス・ストラウドの憂鬱 8

始祖「なんじゃこりゃあ!?」
サラ「次はパスカルの番よ」
執事「サラ様、お強くなられましたね」
始祖「パスカル、ちょっと来い」
執事「…(うわっ 怒ってますね)」
始祖「さっき届いたヴァンパイア・デイリー・ニュースの夕刊だ 
『ヴァンパイアに福音、来月よりブラッドパック発売開始!!』
『考案者のパスカル・ピース氏は語る』
説明してもらおうか!」
執事「あちゃ~ 私の名前や顔は出さないでとあれほど言っといたのに」
執事「私って絶望的に写真写りが悪いんですよね」
始祖「そんなことは訊いとらん ブラッドパックっていったい何だ!?」
執事「わかりやすく言えば携帯可能な『代用血液』です 蛙や魚の血液を精製したもので、人間の血液とほぼ同じ効用があります」
執事「エルヴィラ様の患者さんたちに臨床試験のご協力をお願いしました」
始祖「エルヴィラとコソコソやっていたのはこのためか」
執事「おかげさまで、このたび当局から正式に発売の認可が下りました」

 執事「これがあれば、血に飢えたヴァンパイア
 が見境なく人間を襲って返り討ちに遭うことも
 なくなります 人間も吸血による精神的かつ肉
 体的負担(ダメージ)が軽減されるはずです」
 始祖「……」←注:先日、パスカルを気絶させ
 た張本人
執事「それだけではありません 売り上げの純利益の60パーセントは、始祖様、あなたの口座に振り込まれることになっています」
始祖「あん?」
執事「製薬会社が五分五分というのを、粘りにねばって四分六を勝ち取りました」
始祖「いや、だからなぜ俺の口座なんだ? 考案者のおまえが受け取るのが当然じゃないのか」
執事「我々人間はあなたがたヴァンパイアと違って短命種です 私もいずれ年老いて死にます」
始祖「………」
執事「受取人をあなたにしておけば、始祖様が存命な限り毎月、安定した収入が保証されます」
執事「ブラッドパックの購入者であるヴァンパイアが絶滅しない、という大前提ですが」
始祖「縁起でもないことをぬかすな」
執事「まあ、これで破産の危機は免れそうですね」
始祖「…ちょっと待て 重要なことを見落としていた
俺はそんな契約を誰とも交わした覚えはねえっ!!
執事「おや、始祖様はご存じなかったのですか? 私の特技は他人の筆跡をそっくり真似られることです」
始祖「てめえ、俺のサインを偽造しやがったのか!!」
執事「人聞きの悪いことをおっしゃいますな 始祖様に代わって契約書にサインをしただけです」
始祖「…… とんでもねえ執事だな」
執事「お褒めの言葉と受け取らせていただきます」
始祖「…… ふん もうこれ以上、俺に隠し事はないだろうな」
執事「ええ」
いいえ 本当はもうひとつだけ、あなたに隠していることがあります
それは、あなたを愛している…ということ
でも、あなたに告げることはありません
この思いは墓場まで持っていくつもりですから
パスカルがなにげなく口にした「我々人間は短命種」という言葉――
十数年後、パスカルは、はからずも自らの死をもってそれを証明することになるのだが
―――それはまた別のお話


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