2021年3月4日木曜日

早春にして君を離れ 8

執事「てやっ!!」
始祖「うわっ」
どさっ
始祖「いてて…」
始祖「この野郎、どこの世界に主人を蹴り落とす執事がいる!?」
執事「も、申し訳ありません あまりにびっくりしたものですからつい」
始祖「まあいい、勝手におまえに添い寝した俺も悪かった」
執事「これで降格決定ですね」
始祖「あん?」
執事「ヘマをしでかしたら即・降格だと」
始祖「誰がそんなことを言った?」
執事「……(あなたでしょう)」
始祖「おまえの後釜を探すのもめんどうだ 俺がいいと言うまで執事は続けろ」
執事「かしこまりました」
始祖「そういや聞くところによると、最近あまり寝ていないそうだな 体調を崩すのも無理はない」
始祖「仕事はいいから、とりあえず2、3日ゆっくり休め これは命令だ」
執事「…始祖様」
始祖「ん? どうした、妙な顔をして」
執事「いえ、始祖様がそんなにも私の体を気遣ってくださるとは思いませんでしたので」
始祖「あたりまえだろう おまえに寝込まれてみろ 俺はまたあの不味いばばあの血をすするしかなくなる」
Ziggy「な~ご♪」
執事「…… 厩火事※ですか」
※注:厩火事(うまやかじ) 別名「厩焼けたり」 古典落語の演目のひとつ、働き者の女髪結いがぐうたら亭主の心根を試すお噺 果たして亭主は唐土(もろこし)の孔子様か、麹町の猿か
始祖「冗談だ、冗談♪」
執事「あなたの冗談は昔から笑えません」
執事「不眠の原因はわかっています」
執事「ここ最近、決まって同じ夢を見るんです」
始祖「夢? ホラーなやつか?」
執事「いえ、両親の夢です ある意味、悪夢です」
始祖「は?」
4年前の春、北極海で起きた史上最大にして最悪の海難事故 
生存者リストにパスカルの両親の名前はなかった
始祖「それで?」
執事「死んだはずの両親が実は小さな漁船か何かに救助されていて…」
執事「4年かけて私の居場所を探しあてて、迎えにやって来た…そんな都合のいい夢です」
始祖「……」
執事「たいていそこらで夢から覚めます」
そうしてまんじりともせず朝を迎える
私の「帰る家」はもうとうにないのだ
いくら待ってもあの人たちは私の元には帰ってこない
私だけがひとり、この現世(うつしよ)に取り残されたのだ
…帰ってこない人を待つのは苦手ですので
始祖「……(あれはそうゆう意味だったのか)」
始祖「ん~ 僕ちゃん、いいこと思いついちゃった♪」
執事「?」


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