2020年11月4日水曜日

おにいさんといっしょ 10

始祖「てめえ、主人の顔を見忘れたのか? それともふざけてんのか?」
執事「両方です 驚きましたね、私があれほど無精髭を剃るように申し上げても聞く耳を持たなかった始祖様が」
始祖「今日は大事なお披露目だ エスコート役の兄貴が『むさいおっさん』じゃサラが可哀想だろう」
執事「ごもっともです」
始祖「…いや、そうあっさり肯定すな」
始祖「じゃあ、先に行ってるからな(どろんっ)」
執事「はいはい」
エルヴィラ「こんばんは、お招きありがとう」
始祖「おお、よう来たのワレ」
エルヴィラ「なんで河内弁なん?」
サラ「エルヴィラおねえさまったら、あたしが学校へ行っている間に帰っちゃうんだもん」
エルヴィラ「ごめんごめん、あの時は急用ができたから」
執事「エルヴィラ様はサンマイシューノで吸血病患者の治療にあたっているのでしたよね?」
エルヴィラ「そうよ それが何か?」
執事「実は、あなたにお願いしたいことがありまして」
執事「始祖様にはくれぐれも内密で」
エルヴィラ「うっふっふ 内緒話と悪企みはあたしの大好物よ」
次章「ヴラディスラウス・ストラウドの憂鬱」に続くのであった


2020年11月1日日曜日

おにいさんといっしょ 9

始祖「何だなんだ、あの態度はよ 超むかつくっての」
エルヴィラ「くすくす …さて、と そろそろあたしもサンマイシューノに戻ろうかな」
始祖「ああ、マシューによろしく言ってくれ」
エルヴィラ「!?」
エルヴィラ「ヴラド、なぜマシューの名を知ってるの? あたし、一度も彼の名を口にした覚えはないわ」
始祖「マシュー・ハミング、本名マシュー・スリープ 役者志望の貧乏青年
今はエルヴィラ・スレイヤーのマンションでおさんどんをやっている」
始祖「始祖の諜報網を甘く見るなよ それから、マシューと大喧嘩したってのも嘘だ」
エルヴィラ「なぜそう断言できるの?」
始祖「マシューに直接聞いたからな、おととい長距離電話で」
エルヴィラ「……… ヴラド、あなた最初からわかっていたのね?」
始祖「『彼氏と喧嘩しちゃった、しばらく泊めて』と人のベッドに潜り込んでくる女の言葉を鵜呑みにするほど俺はお人好しじゃあない 本家に先代の隠し子が現れたという情報をキャッチしたおじ貴が、偵察のため娘を送り込んだんだろうと容易に推察できたぜ」
始祖「俺が言うのも変だが、あのマシューってのはいい奴だな おまえの彼氏にしておくのがもったいないくらいだ ちょっと実家へ行くと言って家を出たきり戻ってこないおまえの身を本気で案じていた」
エルヴィラ「10日くらいで戻るって言っといたのに」
始祖「10日もあれば、先代の隠し子騒動の真偽がわかるってふんだわけだ」
始祖「ついでにサラに接近して、将来スレイヤー家の『手駒』として使えるか値踏みしてたのか」
エルヴィラ「そこまでお見通しとは恐れ入ったわ」
始祖「だてに7年も始祖をやっとらん 一番信用できないのは身内だってことも熟知している」
エルヴィラ「はいはい、正体を見破られた性悪女はとっとと退散しますよ」
始祖「どうせ、サンマイシューノに戻る前に実家に立ち寄るんだろう」
始祖「おまえの親父に伝えろ」
始祖「始祖なめんじゃねえってな サラにも一切、手出しすんなよと」
始祖「…あ、それからもうひとつ 乳がでかすぎる女は俺の好みじゃない」

びった~ん!! ←注:平手打ちの音
エンサイクロペディア・ヴァンピリカ第二巻
「周知の事実であるがヴァンパイアは鏡に映らない 彼らがどうやって身支度を整えているかは謎である」
始祖「…ったく、ヴァンパイアってめんどくさい種族だな」
執事「始祖様、サラ様のおしたくができまし…」
始祖「ああ、パスカル ちょうどよかった 髭の剃り残しがないか見てくれ」
執事「………」
始祖「………」
始祖「パスカル?」
執事「…失礼ですが、どちら様で?」


おにいさんといっしょ 8

そんなこんなで1週間が経過した
エルヴィラ「うふふ」
エルヴィラ「あなた素敵よ、ヴラド」
執事「…………」
始祖「パスカル、何か用か?」
執事「お取り込み中、失礼いたします」
始祖「その前にノックくらいしろ」
執事「ノックしたくてもドアがありませんのであしからず… 始祖様に速達が届いています」
エルヴィラ「それ、何なの?」
始祖「カミラ・コープランドつまりサラの母親に関する調査報告書だ これによれば、カミラと親父は愛人関係にあったのは間違いない ただ10年以上前に別れている」
執事「先代はサラ様が産まれたことをご存じなかったんですね」
始祖「…らしいな カミラは親父と別れた後、ひとりでサラを産んでひとりで育てた ヴァンパイア仲間との交流も持たなかったので、7年前親父が死んだことも知らなかったようだ」
エルヴィラ「おじさまがサラちゃんのことを知っていたら、きっとほうってはおかなかったはずよ だって、可愛いひとり娘ですもの」
始祖「可愛いひとり息子はほったらかしだったがな」
執事(…こいつ、まだ根に持ってるな)
始祖「来月、一族の集会がある その時にサラをみなに紹介したい パスカル、サラのドレスを何着か用意してやってくれ」
執事「かしこまりました」
始祖「もう下がっていい」
執事「…あ、始祖様 ひとつお訊きしたいのですが」
始祖「何だ?」
執事「もしサラ様が本当の妹でなく、偽物(にせもの)…つまり騙(かた)りだったらどうなさっていましたか?」
始祖「そりゃあ決まってる メイドとしてこき使って、年頃になったら売春宿にでも売り飛ばして…」
執事「くすっ」
始祖「なぜ笑う?」
執事「あなたはそんなことはなさらないからです」
自分より小さき者、か弱き者に対して
けっして意地悪はなさらない
――それがあなた様だから
(そうでない相手には情け容赦ありませんが)